要点
- ゴールドマン・サックスは、AIインフラの価値は織り込み済みであり、利益はキャッシュフローが圧迫されているクラウドプロバイダーへとローテーションすると主張している。
- SemiAnalysisは、「エージェンティックAI」がAIトークンの価値を高めており、エヌビディアやTSMCなどのハードウェアメーカーのさらなる上昇を正当化すると反論している。
- 議論の焦点は、初期導入者に見られる高い投資利益率(ROI)が標準となるのか、それとも平均的な企業が収益化に苦戦するのかという点にある。
要点

デジタルな「ツルハシ業者」を圧倒的に潤してきたAI主導の市場ラリーから2年、2つの影響力のある声の間で生じた鋭い意見の相違が、投資家にとっての重要な断層を浮き彫りにした。ゴールドマン・サックスと調査会社のSemiAnalysisは、利益が次にどこへ流れるかについて、全く異なる2つのロードマップを提示している。この議論は、AIインフラ取引がその役割を終えたのか、それとも単に新しい段階に入ったのかを問うものである。
「ゴールドマンの見解は、AIインフラの価値は完全に織り込まれているというものであり、SemiAnalysisの答えはほぼその逆である」という2つの見通しの要約は、ウォール街の慎重さとシリコンバレーの確信がぶつかり合う対立を捉えている。議論の核心は、クラウド企業による膨大な資本支出が、半導体企業の極めて高いバリュエーションを維持するのに十分な下流の投資利益率(ROI)を生み出せるかどうかにある。
ゴールドマン・サックスは、クラウドプロバイダーへの財務的負担の増大を指摘している。彼らは2025年にデータセンター建設のために前年の2倍となる1820億ドルの負債を発行すると予想されている。これは、多くの企業顧客がAI投資から明確な財務的リターンをまだ得ていない中で起きている。対照的に、SemiAnalysisは、Anthropicのようなモデルラボの活況を呈する経済性を強調している。報告によると、同社の年間経常収益は9000万ドルから4億4000万ドル以上に急増し、推論の売上高総利益率は38%から70%以上に改善した。これは新しい「トークン経済」の価値を証明するものだと主張している。
かかっているのは、数兆ドル規模に及ぶ可能性のある資本のローテーションだ。収益減退というゴールドマンの説が正しければ、利益の大部分を享受してきたエヌビディアのような半導体株は大幅な調整に直面する可能性がある。しかし、AIが生成する仕事の価値が拡大しているというSemiAnalysisの主張が正しければ、チップやメモリからモデルラボやクラウドプラットフォームに至るAIスタック全体には、まだ大きな上昇余地がある。
投資家は、活気ある市場の中でこれらの見解を検討している。S&P 500とナスダック100は、強気な収益予測を受けて4%以上上昇したアップルなどのハイテク大手の好調なパフォーマンスに牽引され、最近、過去最高値を更新した。市場全体も、原油価格が3%以上下落し、インフレ懸念が一時的に和らいだことが支えとなった。しかし、予想をわずかに下回った4月のISM製造業景況指数や、4年ぶりの高水準となった支払価格指数は、潜在的な物価圧力が依然として根強いことを示唆しており、連邦準備制度理事会(FRB)の政策の舵取りを難しくしている。
アナリストのジェームズ・コベロ氏が執筆したゴールドマン・サックスの主張は、AIが一過性の流行であるということではなく、現在の利益配分が持続不可能であるというものだ。同社は、チップ企業とそのサプライヤーが完璧な結果を求めて「完全に織り込まれている」一方で、代金を支払う顧客であるクラウドプロバイダーや企業は、膨大なキャッシュフローの圧力と不透明なROIに直面している市場であると見ている。
これが不均衡を生み出している。典型的なテクノロジーサイクルでは、チップメーカーの繁栄は顧客の成功を反映するものである。しかしここでは、そのリンクが歪んでいる。したがって、ゴールドマンの取引推奨は「平均回帰」への賭けである。つまり、ハイパースケールクラウドプロバイダーをロングにし、半導体をアンダーウェイトにすることだ。その論理は、企業によるAI導入が加速してクラウドプロバイダーの巨額支出が正当化され、株価が再評価されるか、あるいは支出削減を余儀なくされ、資本規律が投資家に評価される一方で半導体の受注が直接的な打撃を受けるかのいずれかであるというものだ。
SemiAnalysisは、根本的に異なる解釈を提示している。コードの記述や財務報告書の分析など、複雑で多段階のタスクを実行できるモデルである「エージェンティックAI」の出現が、AI「トークン」の価値を根本的に変えると主張している。それはもはや単なる質疑応答サービスのコストではなく、高価値な人間労働の直接的な代替、あるいは増強である。同調査会社は、Anthropicのモデルに対する自社のトークン支出が従業員給与の30%に相当するレベルに達したことに言及し、目に見える生産性向上のために喜んで対価を支払う姿勢を示している。
この変化は、AIの利益プールが単に再配分されるのではなく、拡大していることを意味するとSemiAnalysisは主張する。モデルラボがソフトウェアの最適化や、特定のタスクで最大32倍のスループット向上を実現できるエヌビディアのGB200 NVL72のような次世代ハードウェアを通じて利益率を改善させるにつれ、彼らはエコシステムにおける強力な新しい価値獲得レイヤーとなる。この観点からは、エヌビディアやTSMCのようなハードウェア巨人は「稼ぎすぎ」なのではない。彼らはAI経済の「中央銀行」であり、下流で生み出されている莫大な価値を反映した製品価格をまだ完全には設定していないのだ。
ゴールドマン・サックスとSemiAnalysisの乖離は、企業のROIのスピードと広がりという単一の変数に集約される。市場はもはや「誰がツルハシを売っているか」ではなく、「誰がその上に持続可能なビジネスを構築しているか」を問い始めている。
投資家にとって、これは今後12〜18ヶ月が極めて重要であることを意味する。注目すべき主要なシグナルは、もはやエヌビディアのデータセンター収益だけではない。代わりに、Amazon、Microsoft、GoogleのAI収益ライン、AnthropicやOpenAIなどのモデルラボの売上高総利益率、そしてエヌビディアが次世代のシステムレベル製品に対して行使できる価格決定力へと焦点が移るだろう。企業のROIが依然として不透明なままであれば、クラウドへのローテーションとチップ離れを求めるゴールドマンの主張が勢いを増すだろう。もし「エージェンティック」な未来が急速に到来すれば、AIサプライチェーン全体がさらに高く再評価される可能性がある。
この記事は情報提供のみを目的としており、投資アドバイスを構成するものではありません。